徒然なるままに #1
”つれづれなるままに、日くらし硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ。”
徒然草の序段の言葉だ。
現代語に訳すと
” 特にやることもないままに、一日中硯にむかって、心に浮かんでは消えていく何ということも無いことを、なんとなく書き付けると、あやしくも狂おしい感じだ。 ”
となる・・・らしい。調べた。
いやいや。
普通暇だからって、一日中何かを書き続けたりしなくないか?
きっとこうだ。
「良い作品思いついたけど、書き出しどうしようかな・・・
これだ!」
みたいな。
寝る前に、何故か気になって次の日の朝、前の席のヤツにこの話をする。
「いや、俺吉田兼行じゃねえし・・・」
それくらい知ってる。
「きっとほら、あれだよ。俺たちには想像もつかないようなふかーい理由があるのさ」
「例えば?」
「実は牢屋に閉じ込められてて、文字を書くこと以外は許されてなかった、とか?」
想像付いてるじゃん。
その後もあーだこーだと色々言い合ったがろくな意見はなかった。
結局、昔の人が何考えてるかなんてわかるわけもなく。
「まあいっか、授業始まるし」
俺の一晩越しの悩みはいともあっさり掻き消された。
「おし、じゃあ宿題集めるぞー」
授業が始まるやいなや、先生が不穏なことを言い出す。
「あれ、宿題あったっけ?」
「え、お前吉田兼好にケチつけてる暇あったくせに宿題やってねえの」
・・・え、マジで?
記憶を掘り返してみると、確かに先週言ってたような気がするような。
ちくしょう、吉田兼好が余計なことを書かなければきっと気付いていたのに。
おそらく、というかどう考えても吉田兼好に罪はないが、ただ忘れたというのはちょっと癪だし罪をなすりつける。
仕方がない、ここは必殺技を使うしかないだろう。
「先生。宿題やってきたんですけど、家においてきちゃって・・・」
「やってないんだなー分かったぞー。他ーやってないやついるかー」
なんと横暴な先生なんだ。これでもし、俺が本当にやったけど忘れてたらどうするつもりなんだ。
小声で怒りを前の席のヤツにぶつけてると「いや、でもやってないだろ?」と一蹴された。
結局、他に誰も声を上げてないところを見ると、忘れてきたのは俺だけなんだろう。
1限目からやるせない気持ちになった。
「昼休みだ!」
勉強嫌いな自分にとっては、学校という地獄のような時間の中での数少ない憩いである。せっかくだしテンション高めで言ってみる。
「あ、3限の宿題やってきた?見せてくんない?」
隣の席のヤツに言われる。
宿題とか言うな、テンション下がるから。
「甘いな、俺が宿題やってきてると思ったのか」
「いや、あんまり期待してない」
彼はそう言うと、前の席のヤツに同じことを頼んだ。
・・・ちょっと傷つく。
幸い、前の席のヤツはしっかりやってきていたようで、携帯で写真を撮らせてもらっている。
やれやれ、プライドはないんだろうか。
バッグから弁当箱を取り出す。中身は昨日の夕飯の残り物、ハンバーグだった。うめえ。
お弁当のつめたーくなっているご飯もまた好きだ。
全部食べ切ると、今度はバッグからイヤホンを取り出してプレイリストをシャッフルでかける。携帯からはピザ屋の宅配の兄ちゃんが困ってるって歌が流れた。
軽快な音楽を聞きながら洗面台で歯を磨く。健康は大事。
歯磨きから帰って、音楽を聞き流しながらプリントの問題を解いていく。やべえ俺かっけえ。出来るヤツっぽい。
休み時間が残り10分を切った時に、問題が起きた。
・・・あれ。これどうやるんだろう。
「すみませんもしよろしければこの私めに宿題の方お見せ頂けませんでしょうか・・・」
「良いけど、プライドはどうしたんだよ・・・」
プライドもへったくれもあるか。プライドで単位は取れないのだ。