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とある少女のおはなし #1

私が目を覚ますと、そこは広大な荒地でした。 見渡す限り何も無く、ただ乾いてひび割れた大地のみが広がっています。 生温い風。口の中に砂の味が広がります。 ここは何処なんでしょうか。 そう考えても、自分にはなんの記憶もありませんでした。 目を覚ましてから考えた事や、目にした事象が空っぽの脳みそに刻まれていきます。 自分が形作られていく。 それは今行われていることであり、これから先も終わることはないでしょう。 一つ、また一つと考え、感じる度に私の性質が変化していきます。 それにしても。 ここは何処なんでしょうか。問いかけても誰も答えてはくれませんでした。 この世界には、自分1人しかいないように感じられます。 改めて顔をあげて、辺りを観察してみました。 そこにあるのは、果てし無く広がる荒野。 一切の起伏も無く、ただただ平坦で、荒廃した地面。 よもや、水平線の彼方まで見えるのではないかと感じるほどでした。 ひとまず、歩くことにしました。 それはとても簡単なことです。少なくとも、私にとっては。 右足を前に踏み出し、重心を移動します。 そして、左足を前に出し、重心を移動します。 たったそれだけのことなのですから。 ひたすらに歩き続けました。 足を踏み出すと、ぺたぺたと地面を叩く音がします。 足の裏には硬く乾涸びた土の感触が直に伝わりました。 空を見上げてみました。 地面を見ていても、同じような景色ばかりで退屈してしまいます。 微妙に霞みがかっているのか、空は不鮮明に映りました。 霞越しに灰色の雲がふわふわと浮かんでいるのが見えます。 また、あまり高くは無いところでは太陽が弱々しい光を放っていました。 だから、この世界はこんなにも薄暗いのでしょうか。 薄暗いというのは視覚的な問題では無く、感覚的な話です。 決して見辛いだとか、遠くまで見えないだとかそういうことではないのです。 あまりにも色彩が少なく、変化に乏しい大地。 空は濁っていて、陽の光も今は力無く私を照らすのみです。 なんの希望も、楽しみも持たせてくれないような世界。 もっとも、それも目を通して感じているわけですから、そういう意味では視覚的な問題とも言えるのかもしれません。 そんな世界を、私は歩き続けました。 歩き疲れたら地面に横たわって眠ればいいのです。 どれだけの時が過ぎたのでしょうか。 相変わらず、私の視界には荒れ果てた土地が広がり、空は濁ったままです。 今日も太陽は弱々しく私を照らし、生温い風が頬を撫でていきます。 右足を前前に踏み出し、重心を移動したあと左足を前に踏み出す。 これも、もう何回目でしょうか。 私の足は、健気に動き続けてくれます。 どれだけ疲れていようとも、一度眠れば動いてくれました。 しかしそれでも、あまりに繰り返すと飽き飽きしてくるものです。 決して歩みを止めることはありませんでしたが、そういう時は考え事をします。 この世界には、時の流れがないように感じられました。 太陽は沈むことも昇ることも無く、常に同じ位置を保っています。 景色だって、どれだけ歩いても変化はありません。 同じ場所を回り続けているようにすら思えます。 唯一、時を証明するものといえば私の脳みそくらいでしょうか。 今だって、新しい何かが刻まれています。 しかし、それも私にしかわかりません。 今も空は濁り、地面は枯れているのです。 この、変化の無い世界で時の流れは存在していると言えるのでしょうか。 今日も今日とて、私は歩き続けます。 それでも、この世界で時が進んでいるとは思えませんでした。 果ての無いように感じていた、この荒野にも果てがありました。 終わりの無いものなんて無い、そんな言葉を何処かで聞いたような気がします。 水平線の先に、わずかに膨らみが見えました。 とても、とても些細な変化です。 しかし私にとってはとても大きな変化でした。 やっと、この荒野から抜け出すことが出来るのかもしれません。 ぺたぺたと足音を立てながら、今日も歩きます。 生温い風が髪を揺らしました。 僅かにですが、野草のような匂いを感じます。 この先には新しい世界が待っている、そう考えると期待が膨らみます。 世界というのは、思っていたより遠くまで見渡せるようです。 僅かに見えた膨らみは、徐々に大きくはなりますがまだまだ辿り着けそうにありません。 しかし、今までとは違って心軽く歩くことが出来ます。 なにせ、目標が目に見えたのですから。 少しずつ、本当に少しずつですが近付いているのが分かります。 今までとは違って、前に進んでいることを感じます。 時が流れているのです。 また少し距離が縮まります。 その膨らみは、山であることが分かりました。 どれほどの高さなのでしょう。 距離がある頃はあまり高くは見えませんでしたが、近付くほどにより高く見えます。 また、新しい色も見えました。 とても深い緑色。あの山には植物が茂っているようです。 頂上に近付くにつれて白が混じっているのは雪というものでしょうか。 未だ知らぬもの。未知。 あの山にはどれだけの未知があるのでしょうか。 生温い風の中に、ほのかに何かを感じます。 今までに嗅いだことのない匂い。おそらくは、あの山からでしょう。 山を見つけてから、どれだけ歩いたのでしょうか。 私は、ようやく。山に辿り着くことが出来ました。 これが、植物の匂い。目の前には背の高い木や雑草が青々と茂っています。 そして、その草木の合間には、道。 誰かが通っていたのでしょうか。 決して舗装されたそれではなく、踏み固め、掻き分けられたような獣道です。 足の裏にひんやりとした感触。 樹々に陽の光が遮られているからでしょうか。 この森自体の空気は冷たく感じました。 足の裏の、踏みしめた雑草はことさらに。 大きく、深呼吸。 息を吸うと、綺麗な空気が身体の中を満たします。 口から肺へ、肺から四肢の先まで徐々に行き渡っていきます。 そして、息を吐く。使用済みの空気に用はありません。 外に出てもらいましょう。 何度か繰り返すと、とても落ち着きました。 少し体が軽くなったように感じます。 傍にあった木に寄りかかって目を瞑ると、音がよりはっきりと聞こえます。 木々のざわめき、吹き抜ける風の音。 私は、そのまま眠ってしまいました。 目を覚ますと、辺りの様子が少し変わっていました。 少し陽が射し、暖かくなったように感じます。 木々の隙間から空を見上げると、太陽が先ほどまでより少し昇っているのが分かりました。 木漏れ日が地面に複雑な絵を映し出し、揺れ踊るのが見えました。 風に揺れる葉の音に合わせて動くそれは、見ていて飽きません。 私は再び歩き出しました。 きっと、この先には更に素晴らしいものがあると信じて。 木々の間、なだらかな勾配を持った道を登って行きます。 途中、水の音が聞こえました。 気の向くままに、音のする方へ。 草木をかき分けて歩きます。 さっき歩いていた獣道と違って、誰も歩いたような跡のない道。 そう、未開拓の土地です。 そこを自分の足で広げていく、それはこんなにも楽しいことだったのでしょうか。

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