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勇者山本一樹(26) #2

さて、どうしたもんか。 ここが何処なのか未だによく分かんないけど、少なくとも俺が住んでたところとは違いそうだ。 何をしたらいいのかもわからないし。 取り敢えず外に出てみよう。 ~Holly Land~ 外に出ると、あのイケボのおじさんが耳元で囁いた。 ビビる。横を見てももういなかった。 無駄に発音良いのが腹立つな。 怒りを抑えて、辺りを見渡す。 煉瓦造りの街並み。所々に吊り下げられている黒いランプは街灯だろう。 少し歩くと、石煉瓦の道がコツコツと小気味の良い音を立てる。

柔らかい風が道を吹き抜ける。

どうやら今の家は大通りに面していたらしい。 道が真っ直ぐと、城まで伸びているのが見えた。 そしてBGMが、ケルト風から優美なオーケストラに。 少しぶらついてみる。 車は世界観に合わないからか、見かけなかった。 たくさんの人が広々とした道を歩いている。現代社会ではなかなかお目にかかれない光景だ。 基本的には西洋ファンタジーの世界をモチーフにしているらしい。 ゲームではよく見るけど、実際に歩いたことなんてなかったからすげえワクワクする。 歩いていると、知らない人でも関係なく声をかけられた。 「当ててやろうか?誰かに、スイート・ロールを盗まれたかな?」 誰だよお前。そんな辛気臭い面してねえよ。 というかこの国そんな治安悪いのかよ。 先行きが不安だ。

あと、スイート・ロールってなに。 歩いていると衛兵にも声をかけられた。 「昔はお前のような冒険者だったのだが、膝に矢を受けてしまって・・・」 そうか、頑張れよ。 俺冒険まだしてねえけどな。 まああっちの世界だと、せいぜい仕事での業務連絡くらいしか話さなかったわけだし、久しぶりに会話するのは楽しかった。 情報を集めてみる。 ・・・・・・ チュートリアル的なおじさんがいた。 「メニューを開きたい時はStartボタンを押すんだ。ん?何の話かって?まあ君は気にしないでいいよ!はっはっは!」 気にするわぼけ。 というか操作主とかいねえから、俺以外聞いてねえよ。 どうしよ、流石に手元にコントローラーないし。 頭の中でコントローラーをイメージして、スタートボタンを押してみる。 周囲の動きが止まって、目の前にウィンドウが出る。これで良いんだ。 とりあえず持ち物をチェックしてみる。 [装備] ・町人の服 [持ち物] なし ・・・服だけって。 悲しい気持ちになる。 所持金は辛うじて500ゴールド持ってた。 通貨単位はゴールドらしい。安易だ。

設定画面もあった。

とりあえずカメラ感度を上げた。特に効果は感じられなかった。

あらかた街の人と話して、疲れた。 美味しそうだったカフェに入って、メニューにあった牛乳とスイート・ロールとやらを頼む。

出てきたのは、フレンチクルーラーの従兄弟みたいなやつ。 段々が付いてない代わりに高さが増してて、なおかつ砂糖がよりたっぷりかかってる。 カロリー高そうだ。

これはケーキのように食べれば良いんだろうか。

フォークを使って、外側から切り崩して一口齧る。

・・・うまいけど甘いな。

あれだ、ミニスナックゴールドみたいな。

こういう食べ物は食べていると喉が渇く。

一緒に頼んだ牛乳に口をつける。

素朴な味。砂糖菓子とはまた別のほのかな甘味。

渇いた喉を冷たい牛乳が通り抜ける。

たまにはこういうのも悪く無い。

スイート・ロールを食べながらここまでに聞いた話を整理してみる。 なんか使えそうな情報あったっけ。 ヘルゲンがドラゴンに襲われた、防具は装備しないと意味がない、ぼくはわるいスライムじゃないよ・・・。 どれも使えねえな。 というか魔王とか勇者とか一言も聞かなかったんだけど。どうなってんのこれ。 窓から外を眺める。けど、外は曇が出てきていて中の方が明るかった。鏡のように、後ろが映って見える。 8人のおっさんが頑張ってオーケストラしてるのがチラッと見えた。 ・・・無視しよう。気にしない。

結局、収穫といえばスタートキーくらいか。 一度家に帰るとしよう。 ~勇者の家~ 扉を開けると、またイケボのおっさんが囁く。 マジでイラっとする。 もうちょっと説明してくれても良いんじゃないか。 あ。 本棚調べてない。 RPGの鉄板なのに。 家には本棚が3つあった。多過ぎる。 並んでいる本を見る。 "悪魔の証明" "びっくりモンキーでもわかる経済学" "あの勇者様が実はゾンビだったなんて!3巻" "魔王と勇者の関係 #1" うわ、露骨。 他の奴じゃなくてこれ読めよ、っていう恣意を感じる。 あえて、あの勇者様が!を読んでみよう。 ・・・クソつまんねえ。3ページで投げた。 おとなしく魔王と勇者の関係読もう。 "百年に一度、魔の力が強大になる。 魔の力が強大になる時、光の水晶玉が輝き、勇者を示すだろう。 勇者は女神の加護を受ける。 身体能力が増強され、死すらも乗り越える。" ありきたりだ。多分今がその百年目なんだろうな。 で、水晶玉が俺を示す、と。 他のページは歴代の勇者の紹介や、日記やらが出ていた。興味はない。 次読んでみよう、次。 隣の本棚をチェックする。 "びっくりモンキーでもわかる帝王学" "ねむれるもりのぷぷ" "アルゴニアンの侍女 第1巻" "アルゴニアンの侍女 第2巻" "魔王と勇者の関係 #2" あったあった。 "魔の力が強大になるとき、魔の物が王を擁立する。 その者、魔王と呼ばれる。 魔王は特別な力を持つ。 勇者の力でないとその身に傷はつかない。 また、魔の物を召喚することも出来る。 召喚される魔物は魔王によって異なるようだ。" 今度は各魔王の情報。 これ面白い。攻略本的な。 思わず読み耽る。 全部読み切ってしまった。面白かった。

過去に17回魔王が現れているらしい。

そんだけ湧いてたら一回くらい世界征服出来てそうなもんだけどな。

17回全部失敗してるから、街の人達も話題にしないんだろうか。

最後だ。 "アスタルテ" "スパイダー実験メモ" "スライムでもわかるさんすう" "魔王...者...関... 3" 3巻目だけ異様に古びていた。 表紙は変わらないから、多分これだと思うんだけど。 "魔...倒れ......き、......も....る。 2人......世を....い...滅...る た......一......け転...成......た勇......ると....... そ......由は.........かと......って......" うん。ぜんっぜん分かんない。 まあいいや。 久しぶりに本なんて読んだら頭が疲れた。寝よう。 ベッドに潜り込む。 スイミンマホウ! あっさりと眠りn 聞き馴染みのある音楽で目を覚ます。 てーれーれーれーれってってー。 起きたら顔を洗う。いつもの習慣。 と、そこで気付く。 後ろのおっさんが1人しかいない。 しかもBGMが暗い。 これは、あれか。 寝てる間にイベント進んだやつか。 切なそうな表情をしたおっさんがハーモニカを吹き狂う。 かっこいいぞおっさん。 哀愁を感じるぞ、やるなおっさん。 ~Holly Land~ イケボのおっさんはもう無視だ。 外に出ると、空は厚い雲に覆われていた。 街の人たちも不安げな表情をしている。 「聞いたか?魔王が出たらしいぞ・・・」 「本当!?勇者様早くお助けを・・・」 あ、はい。 このゲーム、ちょっと前から思ってたけどクソゲー臭がする。 これがプレイヤーとしてやってたら間違いなく積んでる。 そんなことを考えていると、衛兵に声をかけられる。 「む、貴様。その顔は・・・」 手元の紙と俺の顔を見比べる。なんとなく察した。 「や、やはりそうだ!ちょっと王城までご同行願いたい!」 意識が途切れる。え。 ~国王城~ おっさんの囁き声で目を覚ます。 石煉瓦造りの大広間。過度すぎず、質素すぎない装飾品。ワインレッドのカーペット。 壮大なBGM。 そしてカーペットの先には玉座。 道の脇には兵士が並んで控えている。 「山本一樹よ。魔王と勇者の話、君は知っておるかな」 「はい」 「それは話が早い。光の水晶玉が次の勇者を示した。それが・・・君だ」 まあ、想像通りだ。 「決して軽いものではない。魔王討伐の任・・・頼めるかな?」 魔がさす。いいえ選びたい。 「いいえ」 「なんと、無理だと申すか?」 「はい」 「なんと、無理だと申すか?」 あ、これ無限ループだ。 「いいえ」 「それでは魔王討伐の任・・・頼めるかな?」 「・・・はい」 「よくぞ言ってくれた、勇者山本一樹よ! 魔王を討伐した際には、我が娘セーラとの婚約を約束しよう!」 ここで一つ、重大なミスに気付いた。 俺の名前めっちゃ浮いてる。 和だし。フルネームだし。 あの時の自分を悔やむ。 というか男じゃなくて女選べば性転換までしてたのか。そしたら顔どうなるんだろう。 後悔先に立たず。 どうしようもない、諦めよう。 割り切りは早い方なのだ。 「それでは、ささやかではあるが魔王討伐に赴く勇者、山本一樹に武器と金を用意した。使ってくれ」 あれか、棍棒と50ゴールドとかか。 ゴミカスみたいなやつを押し付けてくるのか。 大臣的なおっさんが宝箱を持ってくる。 つるりとした頭に汗が見える。 なんでわしが・・・みたいな表情をしてた。 確かに、もっと下のやつに持ってこさせてもいいと思う。 宝箱を開ける。 「この国では騎士団長しか持っていない鋼の剣と5000ゴールド、魔法の袋を用意しておいた。励んでくれたまえ」 この国王、有能だ。やるじゃん。 剣を手に取る。 こういう物は結構重いと、ネットで見たことがある。ぐっと力を込める。 でも予想に反して軽々と持つことが出来た。 女神の加護、とやらなんだろうか。 兵士たちが羨ましそうな目で見てるのを感じる。 なんかごめん。

魔法の袋は、見た目ただの巾着袋だ。

口を開けて中を覗いてみてもやっぱり普通の巾着袋だ。

「魔法の力で、どんな大きなものでもしまうことが出来るぞ。取り出したいときは念じながら手を入れると取り出せる」

あらなんて便利な。

試しに、手に持っている剣を中にしまう。

するりと袋の中に入る。

口に引っかかるようなサイズのところは、近付いた時に勝手に縮まった。

魔法ってなんでもありなんだな。

「いくら勇者といえど、一人旅では厳しかろう。城下の酒場で仲間を募集すると良いぞ」 これはテンプレ通りだ。

仲間か。どうしよ。

「あ、あとこれ。勇者の証じゃ。旅先で使うと良い。魔法の力がかかっておるから、悪意があるものには使えんぞ」

おまけみたいな感じで渡される。

これ大事なものだろ。

手の平大の、金属製の板に紋章が掘ってある。

なんか、コースターみたいだ。

腰に着けてる袋に放り込む。

「よし、それでは勇者山本一樹よ!魔王を、頼んだぞ!」

締まらない名前だ。

微妙にやるせない気分になる。

意識が遠くなる。

あ、これ移動のt

~Holly Land~

おっさんの囁きで目を覚ます。

ホント寝覚めが悪いからやめて欲しいこれ。

移動の時は毎回、気を失うらしい。

暗転の舞台裏はこうなっていたのか。辛い。

とりあえず国王に言われたとおり、酒場を目指すことにした。

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