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Hedgehog diaries #2

他のクラスというのは少し緊張する。 他人の縄張りに忍び込むような。 別に入ったからって怒られるわけでもないのに。 幸い、教室の前で待ってくれていた。携帯を触っている。 こっちに気がつくと、顔を上げて寄ってくる。 「いこ!」 屋上は、他より風が少し強くて。 この時間になってくると少しだけ寒い。 彼女はそんなことなさそうだけど。 「そいえばあの後、すごい騒いでたね?ホモがいた!って喜んでる子がいたよ?」 不名誉なことを言われる。 やっぱり目立ってたんだなあ、と思った。 別に目立つのは嫌いじゃないけど、それはちょっと。やだ。 「俺はホモじゃない、って伝えといて」 あの2人も違うと思うけど。たぶん。 面倒くさいし放っておこう。 「わかった。ホモらしいよ、って伝えとく」 意地悪な笑顔。こういう時は、何を言っても無駄だ。 おもちゃを見つけた子供みたいに弄り倒してくるから。 黙っていると、むぅと口先を尖らせる。 つまんない、って表情。 思わずニヤける。口先がもっと尖る。 あ、そいえば。 「屋上、どうよ」 自分の物を自慢するような。 なぜかドヤ顔になる。 彼女はというと、何を聞かれたか分かってないような顔をしていた。 形の良い眉をひそめている。 「えっと、どう、って・・・?」 「良くない?」 「あ、えっと、んーと・・・夏とかに来ると、風が涼しくて気持ちよさそう・・・かな・・・?」 屋上のロマンは男にしかわからないのかもしれない。 分かり合えないことに、少し悲しくなった。 一際強い風が吹く。 くしゅん。彼女がくしゃみをした。 「そろそろ帰ろか」 そう言うと、頷いた。 屋上を後にする。 自転車を漕ぎながら、帰り道。 横を走る彼女が聞いてくる。 「そいえばさーそっちはどうだったの?」 何がだよ。 「あ、えっと、友達!」 「ん、2人出来たよ」 丁寧に指を2本突き出して答える。 道に落ちていた小石を踏んでバランスを崩す。 ばかじゃん!と笑われた。恥ずかしい。 「そいえばさー」 「んー?」 「今度、買い物行こーよー色々買いたいー」 「んー」 お買い物の約束。ちょうど、文房具が欲しかった。 色々と話し合う。いつ行くか、どこ行くか。 決まった頃に家に着いた。 「そいじゃねー」 「んー」 家に入る。ソファで姉が転がっていた。 携帯をいじってる。 「ただいまー」 「ういー」 「学校行ってきたよー」 「ういー」 あ、話聞いてない。 「1万円ちょーだい」 「やだ」 ちゃんと聞いてた。返事が面倒くさかっただけらしい。 夕飯の準備をする。 今日はせっかくだし、ハンバーグにしよう。 食卓に自分のご飯を並べる。いただきます。 母親は俺が小さい頃に出て行って、父親1人で育ててくれた。 その分仕事が忙しく、月に1,2回ほどしか見ない。 姉にはよく相談に乗ってもらったりした。 中学生にもなると、さすがに幼馴染の家に泊まるのにも気が引けた。 家で寂しい時に話し相手になってもらった。 2人には頭が上がらない。 「新生活、どうよ」 どうよ、って言われても。 まだ初日だし。 「よくわかんないっす。まだ初日だし」 そっかーまだ初日だもんなー、と納得したように頷く。 そう、まだ初日なのだ。 「上手くやってけそうなの?」 いや、だから。まだわかんないって。 まあ、たぶん気になるもんなんだろう。 大丈夫だよ、と答える。 友達だって出来たし。屋上もあるし。 「そっか、それなら良かった」 食べ終わって、自分の皿を洗う。 今日1日あった事を話した。 姉は嬉しそうに微笑みながら聞いてた。 「なあ、部活どうする?」 あれから1週間が経った。 ホームルームが終わって、リョーマが聞いてくる。 手にはさっき配られた入部届。 というか考えてなかったのか。 普通決まってるもんじゃないの。 「軽音部かなーどんな人いるのかわかんないけどー・・・」 運動は苦手だしね。 趣味でギターを弾いてた。そんなに上手くはないけど。 「軽音部か・・・俺もそうしよっかなー」 え、リョーマ楽器出来るの? イケメン高身長のくせに?神様は何をやってるんだ。 「ベース出来るよ!パンク好き!」 「おおー!」 そのまま音楽の話になる。 好きなバンド、好きな曲、好きな歌詞。 知ってるものも、知らないものもあった。 「そいじゃ見に行く?」 軽音部の部室を探す。 地図を見ながら歩くと、ドラムの音が聞こえてきた。あそこだ。 横開きのドアを開ける。 音が急に何倍にも大きくなって、耳に突き刺さる。 ドラムを叩いているのは女の子だった。 それを、何人かが眺めている。 上手い。 ドラムが止まる。 おおー、と拍手が溢れる。 えへへー、と照れたように彼女は笑っていた。 「お」 こっちに気がついた私服の人が、声をかけてきた。 「君たちも入部希望?」 少し緊張しながら、「はい」と答える。 リョーマも同じように答える。声が震えていた。俺も震えてたのかな。 「そいじゃ、なんかやってみる?楽器貸すけど、何と何?」 グイグイ来られる。マジか。緊張する。 ちらり、と横を見ると視線を返される。 任せる、って感じかな。 「ギターと、ベースです」 ほいほい、ちょっと待ってねー、と他の人たちに指示を出し始める。 セッティングをしてくれているらしい。 「ど、どうしよ。何弾いたら良いんだろ」 「やべえよ、マジ緊張するっ」 2人でオロオロする。出来たよー、と声を掛けられる。やるしかない。 「そ、そいじゃ、さっき話してたあれいける?」 「あ、弾ける、よ」 「じゃあそれでっ」 ストラップを肩に掛ける。顔を上げると、皆の視線を改めて感じる。 一度深呼吸。適当に音を出してみる。良い感じだ。 「ワン、ツー、スリー、フォー!」 声で合図をして、弾き始める。 イントロ。パワーコードのブリッジミュート。 途中、いっぱい失敗した。 緊張で手は震えたし、指は汗で滑った。 合わせるのは初めてだったから、ズレたりもした。 でも、すごい楽しかった。 おおー、と拍手を受ける。 良い気分。ちらりと横を見るとリョーマも嬉しそうに笑っていた。 「それじゃ改めて、軽音部です。よろしくね」 さっき声をかけてきた人が部長らしい。 入部届に名前やらなんやらを書いて、部長さんに渡す。 「じゃあとりあえず、説明からかな」 ドラムの女の子と一緒に、機材の使い方やら注意事項やらの説明を受ける。 使い方自体は家にあるアンプとそう変わらなかった。注意事項を忘れないようにしないと。 「あ、忘れてた。そいじゃ自己紹介してもらえるかな」 そいじゃ私から!とドラムの子。 「梨本由紀です!ドラムやってます!よろしくです!」 まばらに拍手。部長が、「そいじゃ、ゆーちゃんね!」と言った。 えへへー、と嬉しそうにゆーちゃんは笑っていた。 リョーマは、ここでも「リョーマと呼んでください!」と言っていた。 本当に坂本龍馬が好きなんだろう。 俺の自己紹介は、特に何もなく終わった。 部長には、「じゃああっくんね!」と言われた。 「それじゃ、後でラインのグループに追加しとくから。友達登録してくれる?」 ピロン、と音がする。 舌を出した子犬のアイコン。 これが部長らしい。 それでは解散、という部長の言葉で皆は帰って行った。外はもう暗かった。 バス来るまで時間あるから、一緒にだべろうぜ。 どうせ暇だったし、適当にあったベンチに座る。 それじゃねー、と何処かから声が聞こえる。 「すげえ楽しかったな!」 リョーマに言われる。 先輩たちも良い人だったし、これからが楽しみだ。 あ。 「でもバンドとかどうするんだろう」 ちょっと遊んだりする分には別に2人でも良いけど、ライブとかになったらそうはいかない。 いや、弾き語りとかなら2人でも良いけど。 それはちょっと違う。 「あの子がパンク好きなら良いのになー。同じ1年同士だし」 「そ、そう・・・だなぁ」 「あ、いた!ねぇ!」 噂すれば影。ゆーちゃんの声。 聞いてたんじゃないかってくらいのタイミング。探していたのか、部室とは逆の方から寄ってくる。 「あのさ、君たち、あたしとバンドやってくれない?」 「おおー!」 携帯を取り出して、何かを操作しだす。 ほら!と画面を見せてくる。 Now Playing。画面には、さっき俺たちが弾いた曲のタイトル。 きっと、知っているよ、ということを言いたいのだろう。 Playingというのは再生中、という意味だ。 もちろん音が出る。割と大音量で。 「あ、わわっ」 慌てて携帯を手から取り落とす。 幸い傷はつかなかったらしい。 音楽を止めて、再びこちらを伺う。 「どう?」 リョーマの方を見ると、さっきと同じように視線を返してきた。 俺が答える。 「うん。一緒にバンド、よろしく!」 やった!と嬉しそうに笑う。 また1つ楽しみが増えた。 友達待たせてるからー、とゆーちゃんは何処かへ行った。 見えなくなってから、リョーマが溜息をつく。どうした。 「いや、実はさ・・・」 実は?何があったんだろう。考えても、特に思いつかない。 「女の子と話すの苦手なんだよぉー・・・」 え?マジで?ていうかそれでバンド大丈夫なのか。先行きが不安になる。 「いやさ、小中と男としか話さなかったからさ・・・何話して良いかわかんない・・・」 あのオープンエロな性格はそうやって培われたのかな。 幼馴染と姉の存在に感謝する。 聞いててちょっといたたまれない気持ちになる。 「だって考えてみろよ!女だぞ!?違う生き物なんだぞ!?お前ウサギの気持ち分かるか!わかんないだろう!?」 熱く語りだす。女の人とウサギは違うと思います。 「大体さ、なんで女子ってあんなに考えること俺たちと違うんだよ!きっと頭の中にはスイーツとドラマと宝石が踊り狂ってるんだ!そんな気持ちわかるわけ・・・なんだよ笑うなよぉ!」 いや、無理だと、思う。笑う。 多分何を言っているのか自分でも分かってないんだろう。 訳のわからないことをずっと言っていた。 俺は横でずっと笑ってた。 「あれ、今何時?」 ほい、と携帯の画面を見せる。 「やばいバス来るじゃあね!」 荷物を手に持つと、慌てて走り出す。 いつもバスぎりぎりじゃないかあいつ。 おーう頑張ってー、と後ろ姿に手を振った。 夜。家事を終わらせて自分の部屋。携帯が震える。 "グループ「けいおんぶ!」に招待されました" どこかで見たようなグループ名。 他の2人も同時に招待されたらしい。 とりあえず最初は挨拶。 「今日入部しました、よろしくお願いします!」 2人も続いて挨拶する。 何人かの先輩に挨拶を返される。 グループの人数を見ると、17人となっていた。 思ってたより多い。 今日は俺達を入れても、部室に8人くらいしかいなかったのに。 「誰と組むかは決めたの?」 先輩のうちの誰かに聞かれる。 かえるのアイコン。 「一年生3人で組むことにしましたー」 おおー、とか頑張って、とか。 思い思いの言葉をかけられる。 ちょっと嬉しい。 裏で、2人にグループ招待を送る。 グループ名は1年生バンド。なんの面白みもない。 「そいじゃ改めてよろしゅう!」 「ういーよろしくー」 「よろしくね!」 とりあえず何を決めよう。いつ練習するかとか、何の曲やるか決めないとな。 「とりあえずバンド名決めようぜ!」 だよね。グループ名このままは嫌だもんね。 「どんなのが良いかなー?」 ・・・誰も反応しなくなる。 きっと恥ずかしいのだろう、誰かが口火を切らないと。 思い付いた言葉を片っ端から翻訳にかける。 良いと思ったやつを並べてみる。 「どうよ」 「あ、最初のやつ好き」 「んー・・・あたしも考えてみるから待って!」 そこから進まなくなる。 リョーマは考える気はないらしい。言い出しっぺなのに。 10分後、ゆーちゃんから。 「あたしも最初のがいいな!Crickets?」 どういう意味なの?と聞かれる。 「んー秘密」 コオロギ、とバラすと嫌がるかもしれない。 面倒くさそうだししばらくは黙っておこう。 次の日の朝、教室に入るとメイクイーンとリョーマが熱く語り合っていた。 「あのボンキュッボンの子、野球部のマネージャーだって!」 「俺、野球やってて良かった・・・神よありがとう・・・」 いつまでたってもボンキュッボンの子、と呼ぶのはどうなんだろう。 「おおー、メイクイーン頑張れ!砂粒くらいの確率でお付き合いできるかもしれないじゃん!」 ふへへ、と気持ち悪く笑う。 リョーマの方を見ると、まだ悔しがってる。 野球部やる!って言い出しそうな勢い。 「いや、俺運動苦手だしそれはないわ」 得意そうなのに。神様もさすがにそこは意地悪したらしい。 「見とけお前ら、この夏俺は彼女をモノにするっ!」 おー、と適当に相槌を打つ。 リョーマはまだぶちぶち言ってた。 その日の体育は身体測定だった。 リョーマが憂鬱そうにしている。 「今日は踏んだり蹴ったりだ・・・」 ちょっと可哀想になる。頑張れリョーマ。 結論から言うと、リョーマは本当に運動神経が悪かった。 50m走はクラスで最下位だったしハンドボール投げは10mほどしか飛ばなかった。途中から涙目になっていた。可哀想。 メイクイーンは去年より成績伸びた!と嬉しそうだった。体育会系って感じがする。 俺の成績はというと。 「・・・なんかびっくりするほど普通だな」 全てにおいて平均的。長座体前屈だけすこーし良かった。 「まあ、うん。ね?」 「・・・うん」 体育の後にお昼休みって素晴らしいと思う。 午後の授業死にそうになるけど。 3人で屋上に向かう。そういえばメイクイーンは初めてかもしれない。 「めっちゃワクワクする!」 わかる。 「ふふふ・・・楽しみにしとけ・・・」 なぜかリョーマが偉そうに答える。 いや、俺が偉そうにするのもなんか違うけど。 「おおー!すげえ!」 喜んで頂けたようで何よりです。 3人で弁当を広げて食べる。 「リョーマのとこの唐揚げうめえ!」 「メイクイーンのだし巻きもうめえじゃん!」 俺はいつも手作り弁当じゃなくてコンビニ飯だから、ちょっと置いてけぼりの気分。 「おらお前も唐揚げ食べろもっと食べろ!」 リョーマが唐揚げくれた。確かに美味しい。 「あ、じゃあ俺のだし巻き食べろ!」 なんだこうなったんだろう。食べる。美味しい。 「ありがとううめえ」 満足そうに笑われる。 良い友達を持ちました。 「あ、そいえばさ」 リョーマが切り出す。最近話題のアイドル。 体つきがエロい。 「前、駅で見たんだよ!俺すげえ嬉しくて写真撮ってもらった!」 携帯の画面を見せてくる。 私服姿のアイドルと制服姿とリョーマのツーショット。2人とも良い笑顔だ。 美男美女だからカップルのように見える。 アイドルの方も嬉しそうだ。リョーマイケメンだしな。 「しかもほら、サインまで!」 携帯の裏。カバーを外すとそこにはかわいい字でアイドルの名前。 サインに慣れてなかったのかもしれない。 「は、何それずるい!俺呼んでよ!」 羨ましそうに唸っていたメイクイーンが吼えた。 リョーマ的には朝の仕返しだったのかもしれない。 熱くなる2人から目を逸らすと、高台に腰掛けてる先輩の姿。 前と同じように手には紙パックの牛乳。 譲れないものがあるらしい。 視線に気付いたのか、軽く手を振られる。 子供を見守る親のような、優しい笑顔で。 小さく手を振り返す。 俺が先輩と同じ歳になった時に、あの笑顔が出来るんだろうか。 あまり自信はない。 「そろそろ教室戻る?」 メイクイーンの声。 いつの間にか言い合いは終わったらしい。 午後の授業は歴史だった。らしい。 体育で疲れた俺は、お腹いっぱいになってぐっすり眠っていた。 「6月の末の方にライブやるよ!」 部長から部のラインに連絡が来た。 参加したいバンドは教えてくれ、とのこと。 代表して俺が一言言っておく。 さて、ライブをやるとなれば。 「曲とか、練習とかどーしよ」 バンドの皆に聞いてみる。 幸い曲はすんなりと決まった。 もともと好きなジャンルが一緒だから組んだわけだし。 「ただ、ギターが一人足りないよなぁ・・・」 やろうとしている曲のバンドはダブルギターだった。 今、うちのバンドにはギターは1人しかいない。 「んー・・・1人ギターでやる?」 出来ることならもう1人欲しいけど、どうしようもなかった。 「とりあえず、やってみてかな」 先行きはちょっぴり不安だった。 土曜日。幼馴染との約束の日。 幼馴染の家に向かう。 待ち合わせの時間より少し早いけど、大丈夫でしょ。 何時ぶりに来たんだろう。 確か、最後に来たのは卒業式の後だから・・・ と、そこまで考えて気付く。2ヶ月か。 すごい久しぶりに来たような気分だった。 日々が充実してたから、ということなのかもしれない。 チャイムを押す。 少し待つと、お母さんが出てくる。 「ごめんね、うちの子まだ準備してるみたいで・・・中で待ってて」 リビングにおじゃまする。麦茶を出してくれる。 昔はいちいち「いや、いいです」とか言ってたけど、今となってはもう当然のように受け入れるようになった。

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