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Hedgehog diaries #3

「それで、最近はどうなの?うまくやってる?」 最近あったことや、新しく出来た友達のこと。 あと幼馴染の事とかを話す。 嬉しそうに笑いながら聞いてくれる。お母さんみたいだ。 前にそう言った事がある。 「今更子供の1人や2人増えたところで、どうってことないのよ」 そんなことはないと思います。 母親がいなかった俺を良く気にかけてくれる。気にするな、と言いたかったんだろう。ありがたい。 予定の時間を10分ほど過ぎて、幼馴染が来た。 「ごめんね、お待たせー」 それじゃいってらっしゃい、と送り出される。 いってきます。 バス停まで、2人で歩いていく。 「いやね、目覚ましかけといたんだけど、寝過ごしちゃって・・・」 昔から朝は弱かった。 俺はいつも早起きだったから、泊まりの時は暇を持て余した記憶。 「まあ、元々そうなると思ってたし。間に合うとは思ってなかったし、だいじょーぶ」 にっこりと笑いかけてあげる。 むぅー、と?を膨らませる。 言い返せないのが悔しそうだ。 「クレープいっぱいトッピングでよろしくね」 ・・・忘れてた。 口は災いの元だ。どうしようお金そんなに無いのに。 ニヤニヤと笑い返される。 悔しい。 そうこうしていると、バス停に着いた。1分も経たないうちにバスが来る。 休日のそれなりに早い時間だからか、バスは空いていた。 後ろの方の席に2人で腰掛ける。 「空いてて良かったね!」 小声で囁かれる。人がいないわけじゃ無いし、大声で話すのは迷惑だ。えらいえらい。 そうだね、と頷いて外を眺める。 バスの揺れに合わせて視界がブレる。 時折、隣からふんわりと良い香りがする。 シャンプーの匂いなのかな。 甘い香り。 ちらりと視線を向ける。目が合う。 小首を傾げられる。どうしたの?って感じ。 軽く首を振る。何でも無いよ。 そっか、と笑う。距離が近いから少しドキッとする。 目を逸らして、また窓の外を見る。 何となく、気分が落ち着かなかった。 「そいじゃ、最初どこ行く?」 県内に1つしかないショッピングモール。 他の県からの客も見越しているのか、中は充実していた。 店内に入ると、案の定混んでいた。 まあ、土曜日だし。 家族連れやカップルがわんさかいる。 「何買いたいの?」 「服、とか?」 かさばるし後回しの方が良いのかな。 でも、後になってくるとサイズが切れてたりするかもしれないし。 悩む。 「かさばるし後回しで良いよー?」 「じゃあ文房具買いたい」 モールの角の本屋さんに向かう。 途中、フードコートを横切る。良い香り。 「お腹減ったークレープー・・・」 時計を見る。まだ10時半だ。 「今食べたらお昼食べれないかもよ?」 「いいの」 クレープ屋に並ぶ。 時間も時間だから、列は短かった。 「それじゃあ、チーズクリームストロベリーにチョコクリームトッピングでお願いします!」 一番安いやつに一番安いトッピング。 気を使ってくれたのかもしれない。 彼女に代わってお金を払う。 「おいしい」 美味しそうにクレープを頬張る。 これだけ嬉しそうに食べてもらえたらクレープ屋さんも喜ぶだろう。 「それなら良かった」 「1口食べる?」 お言葉に甘えて、端の方をかじる。 クレープは人に分けるのには向いていないと思う。頬にチョコクリームが付く。 「仕方が無い、私のティッシュをくれてやろう」 幼馴染にティッシュを分けてもらって拭う。 なんとなく悔しい。 本屋の中は空いていた。人混みはあんまり好きじゃ無いから助かる。 携帯のメモを開く。欲しいものはリストアップしておいた。 「シャーペンとノート、あと筆箱かな」 リストアップするほどでもなかったかもしれない。 「あ、シャーペンならこれ良いよ!」 幼馴染についていく。 手に取ったペンを嬉しそうに見せてくる。 使っているとペン先が回るシャーペン。 持ち手に柔らかゴムが付いていて手も疲れない。 と、パッケージに書いてあった。 「これが使いやすいってね、山本先輩が言ってたの!山本先輩知ってる?」 存じ上げません。 これとかきっと似合うよ!とペンを押し付けられる。 ピンク色のデザイン。絶対似合わないと思う。 「ほら、最近はピンク系男子が流行りらしいし。流行に乗ってこ?」 いやいや、と断る。 きっとそういうのはリョーマみたいな、爽やか系男子に似合うんだ。 「でも女装とか似合いそうだし、可愛い感じで良いと思うけどなー・・・?」 それはそれで嫌だ。 5分ほど似合う似合わないでもめたけど、結局買うことになった。ピンク。 何度見ても、似合うとは思えなかった。 次はノートだ。 「甘いよ・・・これからの時代はルーズリーフだよ!」 さっきから、何なんだろう。 文房具大好きっ子だったのかもしれない。 「ルーズリーフは使いやすいし、ファイルに綴じるだけで楽チンなんだよ!・・・って吉田先輩が言ってた」 だから誰だ。 吉田先輩も知らないの?と首を傾げられる。 知らない。 「ほら、さっきの山本先輩のお友達の」 山本先輩も知らないってば。 ルーズリーフと、綴じる用のファイルを幾つか買う。ノートをいちいち買わなくていいのは便利そうだ。 「私もこれ買おーっと」 そう言って、色違いのファイルを手に取る。 幼馴染も持っていなかったらしい。 持ってないものを人に勧めるな。 最後に筆箱のコーナー。 思っていたよりいろんなものがある。 1つ、強く気が引かれるものがあった。 「これすごい良い・・・!」 巻物のような形をした筆箱。 あまり数は入らなさそうだけど、機能性より見た目だ。 少ないながらも幾つかの種類があった。 海賊の巻物のようなデザイン。和の巻物を模したもの。 その中でも、西洋風のものが特に気に入った。 革をイメージした茶色のデザイン。 何だかカッコよさげな紋章が彫られている。 「お、おお・・・いいんじゃ、ない?」 微妙に引っかかるお答えを頂く。 「いや、気になることあるなら遠慮せず言っていいよ?」 「かっこいいけど、可愛くないよ・・・」 可愛さは求めていない。 こんなかっこいい筆箱があるとは思っていなかった。大変満足です。 全部まとめてレジに持っていく。 「ポイントカードはお持ちでしょうか?」 「持ってないです」 「今すぐお作りすることもできますが」 「いや、いいです」 最近は色んなところでカード作るのオススメされる。ちょっと鬱陶しい。 欲しかったら自分で言うからそっとしておいてほしい。 買ったものをバッグに詰め込む。 大きめのバッグを持ってきておいて良かった。 「そしたら、次は服見たいな」 女の子らしい。 春服が思ってたより持ってなくて・・・とのこと。 よく分からないけど女の子は大変そうだ。 幼馴染に連れられていろんな服屋を回る。 こういう時男のやる事は、荷物持ちと太鼓持ちだ。 幼馴染が買った服の入った袋を両手に提げて付いていく。試着してどう?と聞かれたら似合ってるよ、と答える。 いよっ、さすが美少女!お似合いですぅ!と頭の中で叫ぶ。気分的にはこんな感じだ。 まあ、実際似合ってたから決して嘘ではない。 思ったままに言えるから気が楽でありがたい。 ただ。 「これとこれ、どっちが良いかな?」 この質問が困る。質問というよりクイズだと思って良い。 正解を選べば、「同じこと思ってたんだー」と言われて、ここでの買い物が終わる。 もし間違いを選ぶと「そっか・・・私はこっちかなぁ?」と延々と悩みだす。最終的には正解の方を買う。 なら聞くな、なんて野暮なことを言ってはいけない。彼女達は背中を押して欲しいのだ。たぶん。 今回の選択肢は薄手のグレーのジップアップパーカーと、ライトグリーンのチュニック。え、系統全然違うじゃん。 どっちも買えば良いんじゃないですか。 「どっちも買いたいけど、お金なくて・・・」 なるほど。さて、どっちが正解なんだろう。 個人的にはパーカーが好みだ。理由はわからないけど。 でも、色的にはチュニックの方が春らしいのかもしれない。どうしよう。 「パーカーの方が好きかな」 結局自分の好みの方を選んだ。 もしかしたら気が変わるかもしれないし、ね。 自分の気持ちに素直になってみる。 結果はどうか。 「私もそう思ってたんだ!うん、こっちにする!」 無事に正解を引けたらしい。 嬉しそうな笑顔。手に提げる袋の数が1つ増える。 「お腹減ってきたし、そろそろお昼ご飯にする?」 「う、うん」 時計を見ると1時を回っていた。 この時間なら客も少しは減っている・・・と思いたい。 フードコートに着く。 思ってたより混んでる。けど、そこまで混んでない。いける。 「スパゲッティ食べたい」 イタリアンのお店に並ぶ。 カルボナーラとボロネーゼを頼む。 「いただきます」 挨拶は大事だ。 幼馴染はフォークを使って器用に食べていく。 俺は、ぐるぐる巻くのが上手く出来ない。 1,2本、巻き損ねた麺がにょろんと生えている。 どうやったら綺麗に巻き切れるのだろう。 この世の神秘だ。 ボロネーゼの肉肉した食感が美味しかった。 次食べる時までには、綺麗に巻けるように修行しておこう。 そんなことを考えて幼馴染の方を見ると、手が止まっていた。カルボナーラもまだ3分の1くらい残ってる。 「うぅ・・・お腹いっぱい・・・」 まあ、クレープ食べてたしな。 「ほら、俺も食べるの手伝うから。ちょっと貸して」 皿を少し引き寄せて、フォークで巻き取る。 2本ほど巻き損ねが生える。 今回はノーカンでお願いしたい。 「うん、美味しいね」 2人でカルボナーラを食べ合う。 カルボナーラも美味しかった。 ごちそうさまでした。 「ごめんね、ありがとう」 まあ、もともと予想してたし。 気にしないで、と返す。 「うん・・・」 それでもまだ気にしているのか、しょんぼりとしている。 ああ、もう。 「ゲーセン行こう!」 手を掴んで、早足で引いてく。 ちょ、ちょっと、と慌てた声。 あ、あのぬいぐるみ可愛い。ちょっと欲しい。 500円玉を機体に入れる。6回分。 ボタンを操作して、目当てのぬいぐるみを狙う。 アームがぬいぐるみを捉えて・・・するりと抜ける。ああ、くそ。 幼馴染が横で、キョトンとした顔でこっちを見ている。 「やってみる?」 「・・・うん」 幼馴染が操作盤に近付く。 アームがぬいぐるみの体を掴む。 そのままUFOが浮き上がって・・・止まった時の衝撃で落ちる。 次は俺の番だ。 シンプルに身体を狙うのは素人のやることだ。玄人は首元を狙う・・・って聞いた気がする。 あ、でもこれ頭しかない。首ないじゃん! 慌てている間にぬいぐるみを過ぎていく。 一か八か。 もちろん取れなかった。端をむにゅ、っと潰してひっかく。くるん、とぬいぐるみが回る。 幼馴染の番。 「ここに重心が・・・ここが長いから・・・こうかな・・・いや・・・」 真顔でブツブツ何か言ってる。 怖い。 アームががっちりとぬいぐるみを掴む。 浮き上がって、衝撃でアームが揺れる。 ぬいぐるみは、落ちなかった。 取り出し口の上でアームが広がる。ぬいぐるみが転がってくる。 「取れたよ」 ドヤ顔で言われる。悔しい。 「・・・まだあと2回残ってる。どれか欲しいやつある?」 言いたいことを理解したのか、何も言わず指をさす。猫のぬいぐるみ。 「まあ、取れないと思うけどね」 うるさい。やってみないと分からないんだ。 ボタンに触る前に、位置関係を測る。 どこを掴むと一番取りやすいかを考える。 よし。あとは思った通りに動かせるかだ。 丁寧にアームを操作する。縦・・・良し。 横だ。戻すことは出来ないから、チャンスは1度きり。正確には2回。 ボタンを離す。手に入っていた力が抜ける。 手が落ちて、少しだけボタンを押してしまう。 やっちゃった。 ま、まだ次がある。幼馴染の方に振り返って言い訳をしようとする。 「・・・取れてる、よ?」 え。 取り出し口を覗く。猫のぬいぐるみ。 見てなかったからよく分かんないけど、奇跡が起きたらしい。 「それじゃ、交換!」 四角形に丸と三角だけで出来た顔。可愛い。 幼馴染も嬉しそうで何よりだ。 すっかり気を取り直したらしい。 残っていた1回分は適当にやった。 もちろん失敗した。 買った服と、ぬいぐるみを持ってバスに乗り込む。行きと違って中は混んでいた。 それなりに早めに乗ったんだけど。 荷物が多いのに座れなくてちょっと辛い。 「すごい混んでるね・・・」 耳元で幼馴染が呟く。 そうだね、と頷く。 バスが動き出す。ぐらり。 前にいた幼馴染の体がよろけて、俺とぶつかる。良い香り。 「あ、ご、ごめんね?」 なんか今日は謝られてばっかりな気がする。 気にしないで良いよ。 なんとなく、口元がにやけてしまうのが抑えられなかった。 家に帰って、ぬいぐるみを枕元に飾る。 可愛い。 しばらく眺めてニヤニヤする。 すげえ嬉しい。 携帯を構えて写真を撮る。 良い思い出ができた。 大事にしよう。 「嬉しそうだね?」 姉の声。いつから居たのか、後ろからニヤニヤとこちらを見ていた。 「そう、今日幼馴染と一緒に出かけてさ。そんときに取ってきた!」 正確には取ったのは俺じゃなくて幼馴染だけど。 まあ交換したわけだし、大体合ってる。 「そっか」 いつもの様に、優しく微笑んだ。 夕飯の準備。野菜炒め。ご飯はもう炊いてある。 準備をしながら今日の話をする。

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